建設業の工事完成基準 vs 工事進行基準の違いと選び方とは
匠税理士事務所HPへご訪問ありがとうございます。
建設業支援を担当する税理士の水野です。
【 工事完成基準 vs 工事進行基準の違いと 】 【 選び方について簡単に説明してほしい。 】というご要望を頂きましたので、
今回はこちらについて取り上げます。
工事完成基準と工事進行基準の違いとは
建設業・建築業会計は、一般的な販売業と異なり、
売上をいつ計上するかが非常に重要になります。
なぜなら、建設工事は契約から完成・引渡しまでに
数か月、場合によっては1年以上かかることがあり、
工事期間中に材料費、外注費、人件費などの原価が、先行して発生するからです。
「売上をいつ計上するか」という考えとして、
従来から建設業で重要とされてきたのが、
【 工事完成基準 】と【 工事進行基準 】です。
ここでは、建設業・建築業特有の収益計上基準の
工事完成基準と工事進行基準につき解説します。

工事完成基準による収益計上基準とは
工事完成基準とは、工事が完成し、引き渡しの時点で 【 売上 】と【 原価 】を計上する方法です。
【 建設工事等の引渡しの日の判定とはいつか? 】
請負契約の内容が建設工事などを
行うことを目的とするものであるときは、
建設工事等の引渡しの日がいつであるかは、
【1】作業を結了した日
【2】相手方の受入場所へ搬入した日
【3】相手方が検収を完了した日
【4】相手方で使用収益できる事となった日
など法人税基本通達 2-1-21の8で例示されており
当該建設工事等の種類及び性質・契約内容に応じ
引渡しの日で合理的であると認められる日のうち
法人が【継続】しその収益計上を行う日に
よるものとすると定めています。
完成・引き渡しの定義は会社により異なっても
【 合理的な基準を継続 】すればよいという訳です。
工事完成基準による計算の具体例
たとえば、請負金額3,000万円の工事を受注し、
工期が2026年10月から2027年3月までとします。
工事中の2026年に材料費や外注費が発生しても、
工事が完成し引渡完了までは、売上計上しません。工事が完成した2027年3月に、請負金額3,000万を完成工事高として売上に計上し、
対応する原価も完成工事原価で費用計上します。
工事完成基準の特徴は、処理が分かりやすいこと。
完成・引渡しというタイミングで売上計上するため、
中小建設業も取り入れやすい方法といえます。
工事期間に発生した材料費、外注費、労務費は、
すぐに費用に処理するのではなく、
いったん未成工事支出金で【 資産 】計上します。
そして工事が完成し、引渡しをした時点で、
売上対応原価として完成工事原価に振り替えます。
工事完成基準で収益計上するメリット
【 工事完成基準のメリット1 】
・第一に会計・経理処理が簡単であることです。
工事の進捗率を毎月計算する必要がなく、
完成・引き渡しの事実を基準に売上を計上するため、経理処理が比較的シンプルです。
【 工事完成基準のメリット2 】
・売上計上のタイミングが明確
工事が完成したか、引渡しが完了したかといった
事実関係に基づいて収益計上をするため、
判断の余地が比較的少なくなります。
結果、税務調査で見解の相違による収益計上漏れで
追徴税額を受けるリスクを減らす事が出来ます。
【 工事完成基準のメリット3 】
・小規模工事や短期工事に向いている。
数週間から数か月で終わるような工事であれば、
完成・引き渡しの時に売上を計上しても、
期間損益が歪む可能性は、小さいといえます。
工事完成基準を採用するデメリット
一方で、工事完成基準はデメリットもあります。
それは工事期間中の経営成績が分かりにくい事。工事が進んでいても、完成・引き渡しをするまでは
売上も利益も計上されません。
そのため、実際には多くの工事が進行していて
現場では利益が出ているにもかかわらず、
決算書上は売上が少なく見えることがあります。
反対に、工事の完成と引き渡しが集中した年は、
一気に売上と利益が計上されることになります。
結果、年度により利益が大きく変動し、会社実態を
正確に把握しにくくなる場合があります。
また、工事完成基準だけに頼っていると、
進行中の工事が、【黒字】なのか【赤字】なのかを
早い時期に把握しにくくなります。
完成してから赤字工事だったと判明しても、
対策を取るには遅いという事に繋がります。
そのため、会計上は工事完成基準を採用しても、
経営管理上では、工事台帳を作成し管理して、工事ごとの予算、実行原価、発生原価、予想の利益を毎月確認することが重要です。
工事進行基準による収益計上基準とは
工事進行基準とは、工事の完成を待たず、
工事の進捗度に応じ売上・原価を計上する方法です。
【 工事進行基準が強制適用になる場合 】
工事進行基準が強制適用される場合とは、
下記の要件に合致する長期大規模工事が、
税法上、工事進行基準の強制適用とされます。
(法人税法64条・法人税施行令129条➀②)
【1】着手から目的物の引き渡しの期間が1年以上
【2】請負対価が10億円以上であること
【3】その工事に係る契約において、
請負対価の2分の1以上が目的物の引渡しから
1年を経過する日以後に支払われるものでない
これらの要件に合致する長期大規模工事では
工事進行基準による収益計上が強制されます。
たとえば、請負金額1億円の工事について、
決算日に工事全体の40%が進んでいる場合、
売上も40%分、つまり4,000万円を計上します。
同時に進捗に対応する原価も費用計上します。
工事進行基準では、工事が完成する前であっても、
進捗に応じて売上と利益を段階的に認識します。
そのため、長期工事が多い建設業の会社では、
実態を適切に決算書へ反映しやすいといえます。
工事進行基準での売上原価の計算方法
工事進行基準で重要なのは、工事進捗の見積りです。一般的には、次のような方法で進捗率を計算します。
【 その年度の収益計上すべき金額 】
請負対価額×進行割合-その年前に収益計上した額
【 その年度の費用計上すべき金額 】
見積り原価 ×進行割合- その年前に費用計上した額
進行割合=発生した工事原価÷工事原価総額の見積
たとえば、工事原価総額の見積額が8,000万円で、
決算日時点までに発生した原価が3,200万円なら、工事の進捗率は【40%】というわけです。
この工事の請負金額が1億円であれば、
1億×40%=4,000万を売上計上するイメージです。
そして、発生済み原価3,200万を費用計上すれば、
その時点での利益は800万円となるわけです。
このように、工事進行基準は、工事の進み具合に応じ
売上と原価と伴う利益を期間配分します。
工事進行基準で収益計上するメリット
工事進行基準の最大のメリットは、
実態に近い形で売上・利益を計上できることです。長期工事は完成年度で売上原価を一括計上すると、
完成年度ごとに業績が大きく変動します。
工事進行基準を経理で使えば、工事が進んだ分だけ
売上と原価を計上して、利益を計算するため、
【 決算書が会社の工事の実態 】に近づきます。
また、工事進行基準を採用するためには、
工事ごとの原価管理や進捗管理が必要になります。
結果、工事台帳整備、予算管理、実行原価管理が進み、
赤字工事を早期に発見しやすくなります。
工事進行基準を採用するデメリット
一方、工事進行基準は実務上の難しさがあります。【 工事進行基準のデメリット1 】
工事原価総額を合理的に見積もる必要があります。
見積原価が不正確であれば、進捗率も不正確になり、
結果として売上や原価も誤って計上されます。
【 工事進行基準のデメリット2 】
現場ごと原価管理ができてなければ適用が困難
材料費、外注費、労務費、現場経費などを工事ごとに
正確に集計できなければ、進捗率を計算できません。
【 工事進行基準のデメリット3 】
利益操作の余地が生まれやすいこと
工事原価総額の見積りや進捗率の判断によって、
売上や原価、利益の金額と税額が変わるため、
恣意的な処理にならないよう注意が必要です。
収益計上基準が適正かは、税務調査で確認され、
見解の相違があれば税額の影響は多額になります。そのため、工事進行基準を使う場合には、
工事台帳、実行予算、発注書、請求書、出来高資料の
客観的な資料を整備しておく事が重要となり、
建設会社の経理担当に求められるレベルが上がり
大規模な法人しか利用されてないのが実態です。工事完成基準と工事進行基準の違の違い
| 項目 | 工事完成基準 | 工事進行基準 |
|---|---|---|
| 売上計上時期 | 完成・引渡し時 | 進捗に応じ計上 |
| 向いてる工事 | 短期小型工事 | 長期大型工事 |
| 会計処理 | 比較的簡単 | 原価管理・進捗管理が必要 |
| 業績反映 | 完成年に利益が集中 | 期間ごとの実態を反映しやすい |
| 管理上の注意点 | 進行中の損益が見えにくい | 見積りの正確性が重要・恣意性注意 |
建設業・建築業の経理会計で重要なポイント
建設業・建築業の経理会計で本当に重要なのは、
単に税務会計の基準を選ぶことではありません。
本当に大切なのは、現場工事ごとの利益を
正確に把握する仕組みを持つことです。
たとえ会計上は工事完成基準で処理していても、
経営は、毎月工事別損益確認の必要があります。
どの現場が利益を出しているのか、
どの現場が赤字になりそうなのか
を早期に把握し対応できなければ、
会社全体の利益・経営の改善はできません。
特に建設業では、売上高だけを見ていると危険です。
売上が大きくても、外注費や材料費が膨らめば
利益は残らず社員さんに給与が払えません。
逆に、売上規模は小さくても、
利益率の高い工事を積み重ねている会社は
財務内容が安定し経営を継続できます。
そのため、工事完成基準か工事進行基準かという
会計処理とあわせ、工事台帳で現場別損益管理を
徹底し会社を経営していくことが重要です。
工事完成基準vs工事進行基準のまとめ
工事完成基準は、工事が完成し引渡し時点で
売上と原価を計上し利益を把握する方法です。
分かりやすく、小規模短期工事に向いてますが、進行中の工事の利益が見えにくい弱点があります。
一方、工事進行基準は、工事の進捗に応じて
売上と原価を計上する方法です。
長期大型工事は、会社実態を反映しやすい反面、
正確な原価管理と進捗管理が必要になります。
建設業では、どちらの考え方を採る場合でも、
最終的には工事ごとの原価・利益管理が重要です。
完成してから赤字に気づくのでは遅く、
工事の途中で利益状況を把握し対策を取ることが、
強い建設会社をつくるための基本になります。













